970608
7月から夏運賃になるのでその前に神津島に行くことにした。 オオシマツツジを見たかったということもある。
伊豆七島に出かける時は横浜大桟橋から東海汽船の客船に乗ることにしている。 竹芝桟橋から横浜まで1時間以上かかるし、横浜からの乗客用に船室が別なのでオフシーズンはがらがらだからだ。それでも今回はやはり冬に比べると混んでいた。
貸し毛布で場所を確保してビールを持って、夜食に用意したカップラーメンにお湯を入れて甲板に出る。船はもう動いていた。 明治時代に作られた赤灯台を過ぎると間もなくベイブリッジをくぐる。 マストぎりぎりに橋をすり抜ける光景は何度見てもどきどきする。 橋の入口の赤灯、青灯を見送り船室に戻ると間もなく消灯時間だ。 日の出の時間を確認して4時にアラームをセットして横になった。 最初は暑くて毛布の上に横になっていたが、空調が効いて涼しくなったので毛布をかぶって寝た。
何度か目を覚まして時計を確認する。3時過ぎにエンジンの音が止まった。 大島に着いたのだろう。入港の5:30までは沖に停泊して時間調整をするのだ。
4時ちょっと前に起きてしばらくぼーっとしていた。波は穏やかだ。 4時をしばらく過ぎてから、荷物を背負ってそっと後部デッキに上る。 雲が色づき始めていた。もう手持ちで写真が撮れるくらいの明るさだ。 海に反射する光が良い色を出している。水平線近くに若干雲があるようだ。 風はそれほど無かった。普段着で十分なくらいだ。
そろそろ4:30、日の出の時間になった。とりあえず 300mm にx1.4のエクステンダーをセットして準備する。あまり期待してなかったのだが、赤い太陽が房総半島から頭を出した。水平線近くは雲がなかったようだ。 ちょうど良い位置に船がいたのだが、2枚くらい撮ったところで離れていってしまった。 x2 のエクステンダーを付けてなかったのが悔やまれる。
フィルムを2本撮り切ったところで寝に戻った。利島を過ぎるまでずっと寝ていた。大島でだいぶ降りたようだが乗ってくる人もいて船室はにぎやかだ。ふらふらと甲板に出ると新島が近付いていた。 左右前後に島があってどれがどの島なのかよくわからない。利島だけはあの独特の形から判別できた。新島は思ったより山が高かった。そのうち行かねばなるまい。
新島、式根島を経由して 9:25 神津島に着いた。船はここで折り返して1時間後に竹芝に戻る。 帰りは 13:20 の下田便(10:20 と1日おきに時間がかわる)を予定しているので、 島の滞在時間は4時間弱である。
島から見ると天上山は屏風のように高くそびえている。 山頂には雲がかかっているほどだ。 灯台と天上山を回る予定だったが、山だけで時間がなくなりそうだ。灯台だけだときっと時間が余るだろう。どっちにしようか考えながら、とにかく自転車を借りることにする。 観光案内で紹介してもらった最寄りのレンタサイクルは、急な坂を3分くらい登ったところにあった。 隣にある釣り具店と神津島モーターサイクルを1人で切盛りしているおじさんに自転車を半日借りることにして、灯台までの道を教えてもらった。 道ができたからだいじょうぶだよーと言われた。
山の中腹(というほどでもないが)にあるモーターサイクルから細い道を 辿ってゆくと島の南側の開発総合センターに着く。 地図で見て思っていたよりも小さな島のようだ。 ここからヘリポートがある丘を越えると灯台だ。 真新しい道路はまだ一部工事中だった。地図を確かめながら上へ上へと登る。 自転車を漕ぐのが辛いので押して登った。頂上のヘリポート近くでひとやすみ。 汗が出るのでTシャツ1枚になった。ここから下りになる。
帰りが辛そうだと思いながらもやはり下り坂は何より爽快だ。 大きな十字架を右に見ながら下る。坂の途中から灯台が見えた。 思ったより大きな灯台だ。 坂を下り切ってまたちょっと登ったところに灯台の入口があった。
自転車を駐めて、階段を登る。ちょっと荷物が重い。 登り切った丘の上が小さな公園になっていて、そこに灯台が立っていた。 見晴しはそれほど良くないが、階段状のベンチに上がると天上山がよく見える。 荷物を下ろしてひと息ついて灯台の撮影にかかった。 ちょうど紫陽花が咲いてて良い感じになった。ツツジやアマリリスも咲いている。
ひととおり撮影が終わり、時間を見ると10時半。 時間はあまりないがオオシマツツジは何とか見たい。天上山を目指すことにした。 来た道を戻る途中、客船が汽笛を鳴らして帰っていった。 集落から登山口までひたすら自転車を押して登る。 はるか続く登り坂に途中でくじけそうになったが、12時過ぎたら引き返そうという安直な計画でひたすら登った。
やっと登山口に着いたのは11時20分だった。自転車を駐めて重い 300mm のレンズと、結局今回は1度も使わなかった三脚を自転車のカゴに入れて身軽になる。 レンズが無くなるととても困るが、「歌島には盗人はいない」という三島由紀夫の「潮騒」の文句を思いだしたりして(港にパトカーがいたりしたので全く根拠はないが)とりあえず置いていくことにした。 このような島の人達はみな親切だということもわかっていた。
神津島は、黒土と白い土の部分に別れる。島の人達は黒島、白島と呼んでいる。 その黒島登山口から山頂に向かって登山道が続いている。 1合目から山頂まで道標が立っていて親切だ。 岩と潅木の間をジグザグに登る登山道は見晴らしが良く、振り返ると眼下に集落と港が見える。 高さは全く違うが、この展望の良さは利尻山に匹敵するかもしれない。
ところどころにツツジが固まって咲いているがどれも元気がなさそうだ。 登山道の近くの木はみな途中で折れていて、焦げた跡が残っている。 ずいぶん前に山火事でもあったのだろう。天狗が積んだという石塁跡を過ぎて、信じられないことに12時前に山頂に着いてしまった。 丘のように広がる一帯がとにかく山頂らしい。荷物を置いて 60m 上の三角点まで登ってみた。途中のあちこちにオオシマツツジが咲いている。 吹き続ける風に揺れる花は小振りだが、岩ばかりの山の上でその赤い色はひときわ目だっていた。
三角点に着いた。雲の中ではなかったが、残念ながら島の反対側は見えなかった。 それにしても風が強い。寒くて長い時間はいられなかった。 12時10分になったので下山することにした。今度は来た道を下るだけなので速い。 海を眺めながら歩くのは気持ちが良かった。そういえば登り始めてまだ誰にも会っていない。
下りは30分もかからなかった。ちゃんと荷物は残っていた。自転車で坂を一気に下る。アイスクリームが食べたいと思っていたらビールの自販機があったので買って飲んだ。 一気に飲んだら、胃の中で急に膨張して苦しかった。やはり空きっ腹じゃいけないなあと思って持っていたパンを自転車に乗ったままかじった。
1時前に自転車を返してお礼を言い、港に向かった。 下田行きの船は既に港にいるようで、待ち合い所には誰もいなかった。 切符を買って船に乗っる。 来る時に乗った東海汽船の客船よりもだいぶ小さい。
新島、式根島を経由してきた船は釣人でいっぱいだった。サーファーも何人か乗っていた。 何とか場所を確保して、カップラーメンを買ってデッキで食べた。 デッキの座席も釣人でいっぱいで立って食べた。船は動き出していた。 船室に戻ると、釣人たちが酒盛りをしていた。その横で小さくなって寝た。
アラームで目を覚ましてふらふらとデッキに出てみる。船はかなり揺れている。 寝てないと船酔いしそうだ。神子元島はまだ見えない。 戻って30分後にアラームをセットしてもう一度横になった。2度目に目覚めてデッキに出るとちょうど神子元島を過ぎたところだった。 明治時代に作られた白黒縞模様の灯台が良く見える。 これは現存最古のもので、今回の目的のひとつはこの灯台の写真を撮ることだった。
600mm で撮る。防振レンズとはいえ、揺れる船の上からの撮影は厳しい。 フィルムを使い切って船室で交換して戻るともう島は遠くなっていた。 島を過ぎると下田はすぐだった。港からの臨時バスに乗って伊豆急下田駅に着いた。